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一本釣り漁業

春永克己氏に学ぶ
ニューフィッシャー短期漁業研修

イカタンポ流し釣り

山口県漁業協同組合特牛支店 
春永 克己(はるなが かつみ)氏

春永氏の経歴

  • 19才〜36才
    大洋漁業の遠洋トロール船に、司厨員として17年間乗り込み、世界の海を航海していた。
  • 36才〜45才
    国立病院の調理員(国家公務員)として勤務。この時期に奥さんと知り合い、結婚。
  • 45才〜
    海の仕事に戻りたいと思い、奥さんと相談の上、漁師の道を選んだ。

船名

春日丸(7.9トン)

操業パターン

ヨコワ(マグロ)曳き縄釣り:11月〜2月、サワラ曳き縄釣り:2月〜3月、アジ一本釣り:3月〜4月、ケンサキイカタンポ流し釣り:5月、ヨコワ曳き縄釣り(春ヨコワ):6月、素潜り漁:7月〜8月、ケンサキイカタンポ流し釣り:9月〜11月

水揚げ金額

年間500万円から700万円

家族構成

漁師:春永 克己(はるなが かつみ)氏
妻:美知子
長男、長女、次男

イカタンポ流し釣り乗船記

7月25日(日)、ニューフィッシャーの短期漁業研修で、3名の候補者を乗せて、イカタンポ流しの操業に出漁した。


出港前

午前2時30分 特牛漁港出港

午前3時30分 特牛沖12マイル漁場到着

夜明けまで待機(漁場では、船間距離を保つルールがあり、流し始める操業場所を確保する目的で、早めに到着して、良いポイントに流れる地点を確保する)

午前4時30分 うっすらとした夜明けと共に操業開始。

※イカタンポ流し:

ブイ(浮き)の下に、イカ餌木10個を付けた仕掛けを順次、投入。
海底ぎりぎりを流れるように水深に合わせて仕掛けの長さを調節する。
イカタンポ流しの仕掛け(通称:タンポ)は、適当な間隔を空けながら、計18基投入し、30分程度潮の流れにまかせて流す。
波で上下に揺れるタンポによって、餌木も同調して揺れ、ちょうど良くイカを誘う動きをする。誘われたイカが餌木に抱きつくと、針にかかる仕組みになっている。
イカが釣れていたら、ラインローラーで、タンポを巻き取り、餌木にかかったイカを取り込み、活け間に入れて、タンポを再投入する。
操業は、この繰り返しである。

午前6時 船上で朝食、春永氏は奥さん手作りの弁当

獲れたてのケンサキイカを元司厨員で元調理師である春永氏が、手際よく刺身に造ってくれる。
船の上では、刺身を海水で洗って作るため、ほどよく塩味が効いている。船の上で食べる刺身はなぜこんなにおいしいのか。労働の後ということや、自分たちで獲ったイカであることや、海を渡る風を感じながら、波の音を聞きながらなど、いろんなスパイスが効いているためか。

午前7時〜

研修生3名にも、順番に、イカタンポの投入から、道具の巻き上げ、漁獲物の取り込みまでを実際に体験してもらった。
最初はおぼつかない手つきであったが、18基を巻き上げ、掛かったイカを取り込み、再投入の作業を18回繰り返すと、最後にはどうにか格好が付くようになった。
当日は、波もおだやかで、天気もよく、研修生は3名とも船酔いすることもなく、元気に操業の手伝いをおこなっていた。(この3名のうち2名が、長期漁業研修に入る予定である。)

午前11時30分

通常の漁労であれば、午後3時ごろまでこの操業を繰り返しおこなう。この日は、研修生を乗せているため、午前11時30分に操業を終了して、港へ向かった。
この日は、ヤリイカ、ケンサキイカを、発泡スチロール箱に5箱分を漁獲した。通常であれば、1日に20箱程度の漁獲がある。

午後12時30分 特牛漁港に帰港。

通常は、漁獲物を市場開始時間(夜中2時)に合わせて、特牛市場に水揚げする。相場によるが、ケンサキイカ1箱5,000円〜10,000円

春永氏の話

今のようなニューフィッシャー制度はなかったため、自力で漁協や漁師を訪ねて勉強をして、独立漁師としての道を切り開いた。
公務員から漁師になると決めた時、周囲から驚かれたが、漁師になりたいという思いが強く、無我夢中でやってきた。そのため、「苦労した」ように言われるが、自分では、苦労とは思わなかった。
ただ、漁師をやっていけているのは、奥さんの理解や手伝いがあってのこと。感謝している。
独立してすぐに、3年連続で組合の水揚げ第1位として表彰された。そのぐらい必死で努力した。その後、表彰の制度がなくなったが、水揚げは常に上位をキープしている自負がある。漁師は、稼ぐ漁師を「漁師」としてお互いに認めあう。
一番豪快な釣りは、冬場のヨコワ曳き縄釣りである。長崎県対馬の船団に技術を教わって以来、たくさん釣れるようになった。周辺の漁師にも技術を教えて、一緒に船団を組んで出かける。漁師と言っても、自分一人では何も出来ないので、仲間を作らないといけない。マグロは走り回っている魚なので、情報の共有が大切。たくさんの情報を共有してこそ、漁が可能である。ヨコワ曳き縄釣りは、良い時で、1日20万円〜30万円の水揚げがある。冬場は時化る日も多いが、月に10日〜15日出漁する時もある。
長男は公務員をしているが、高校生の次男が「お父さんは1日でお兄さんの月給を稼ぐの?」と言っており、次男が漁業で後を継ぐことも考えているようだ。父親としては非常に嬉しい。

漁業就業希望者へ

一本釣りは資本がかからないので、独立するには向いている。「一発で大もうけ」ということはないが、地道にこつこつやっていけば、食べていくのに困ることはない。
船酔いは慣れるので、船酔いをすること自体は問題ではない。